連載『少年野球のコンディショニング』 バックナンバー
第3回 「理に叶ったフォーム作り[スローイング編]」

■あくまでも障害予防が先
 連載第3回のテーマから、いよいよ各論に入ってまいります。前回の概要説明にもあったように、野球のコンディショニングで最も重要なのが"テクニカル・コンディショニング"です。その中の"期分け"についてはすでに説明済みゆえ、今回から3回シリーズで「理に叶ったフォーム作り」の話をしたいと思います。ただ、これは単なる技術論ではなく、あくまでも障害予防、つまり効率の良い動作を身に付けることで、しなくてもよいケガを未然に防ぐことが第一の目的です。読者の皆さんは、どうかそれを最後まで忘れないようにして下さい。パフォーマンス向上の前に障害予防…。これが鉄則です。

 ではまずスローイング編ということで、ピッチャーの投球フォームについて考えていきましょう。

■2つのキーワード
 最初にちょっとだけ専門的な話をさせて頂きますが、決して難しい話ではありません。「人間のからだはこういう作りをしているのだから、こういうふうに動かした方がいいですよ」ということが言いたいだけです。以下に、人間の肩の構造に関する2つのキーワードを掲げますので、まずはそれを理解して下さい。

1.肩甲骨面【けんこうこつめん】
 1つ目のキーワードは"肩甲骨面"です。周知の通り、肩の関節は肩甲骨と上腕骨のジョイント部分を指しますが、ポイントとなるのは上腕骨の受け皿となる肩甲骨の位置(付いている向き)です。


 上図に示す通り、気を付けの姿勢で人間のからだを上から見ると、肩甲骨は約30度(個人差あり)前方に角度をもって付いています。この角度の延長線上にできる平面を肩甲骨面と呼んでいますが、この平面の存在をしっかりと押さえておいて下さい。もちろん、肩甲骨は意識的に動かすことができますので、肩甲骨を背骨の方に引き付ければ、肩甲骨面は後ろ側に広がります。つまり、肩甲骨面は一定ではないということです。

 ここでちょっと考えてみましょう。気を付けの姿勢だと、腕はどこで上げるのが一番上げやすいでしょうか?先ほども述べたように、「腕の骨は肩甲骨に付いている」というのがヒントです。

 さて皆さん、おわかりになりましたか?一番上げやすいのは、腕をからだの前で上げたときだと思いますが、要は、肩甲骨面よりも前で上げると腕は上げやすく、肩甲骨面よりも後ろに行けば行くほど、腕は上げづらくなるということです。このことをしっかり覚えておきましょう。

2.ゼロポジション
 続いて2つ目のキーワードは"ゼロポジション"です。


 これはさらに専門的な話になりますが、臨床医学的に肩が最も安定した肢位をゼロポジションと呼んでいます。正確には、上図のように、肩甲骨面でかつ、肩甲棘と上腕骨が一直線上に並んだ肢位を指し示しますが、大まかには下の写真のように、頭の後ろで手を組み、完全に脱力した状態から肘の位置を変えずに手を上げると、ほぼゼロポジションとなります(ハンモック肢位)。横から見たときに耳が見えて顔が隠れる状態です。つまりはここでボールをリリースしてほしいのです。ゼロポジションでボールをリリースすれば、自分の視野の中にリリースポイントが入ってくるはずですね。


■チェックポイント
 上記のキーワードを頭に叩き込んだら、今度は実際のフォームチェックに入ります。チェックのポイントは以下の6つ。1から順番にやってみましょう。

1.前脚を上げたときのバランス
 まず最初にチェックしたいのが、前脚を上げたときのバランスです。子供の場合、前脚を上げたときに、上体が後傾してしまうことが多いため、まっすぐバランス良く立つ練習をしましょう。上体が後傾すると、次の動作で踏み出した前足がアウトステップになりやすく、小趾(足の小指)加重になって膝も外に割れることが多くなります。初めは鏡や窓ガラスに自分のからだを映して修正してもかまいませんが、それに頼りすぎてしまってもいけません。チェックをしていく過程において、頭の中でイメージしながら感覚を研ぎ澄まし、微調整していくことが長い目で見て重要です。

 このとき、前脚は無理のない範囲で上げられるところまで上げ、つま先を若干投げる方向とは反対に向けます。また、後ろ脚は小趾加重にならないように足の内側に体重をかけ、太ももの内側を緊張させます。そうすることで、両脚が内側に締め込まれた状態を作り、力をからだの中心で蓄えるのです。


2.前脚を下ろすときの後ろ脚の折れ
 続いてのチェックポイントは、上げた前脚を踏み出すときに、後ろ脚の膝を故意に折らないことです。無駄に重心を下げて後ろ脚に負担をかけ、位置エネルギーをロスする必要はありません。ただ、下の写真のように、前脚を下ろすときに膝を伸ばしたまま下ろすと、後ろ脚で踏ん張らなければならず、自然に膝は少し折れます。これは日本で多く見られる投法(ヒップファースト)で、この方が自ずと下半身に力が蓄えられて球速も増しますが、その分下半身のへばりも早く、まだ下半身の弱い子供にはこの投げ方で長いイニングを投げることは厳しいでしょう。基本的には、前脚を自然に下ろすことから始めて、極力ロスの少ないフォームを身に付けることが肝要です。そして、体格や筋力に応じて前脚の下ろし方を調整していくことをお薦めします。

▼前脚を自然に下ろしたとき
▲前脚を伸ばしたまま下ろしたとき

3.テイクバック
 次はテイクバックです。これは、投球動作の中で肩や肘の障害と最も相関の高い項目ゆえ、しっかりとチェックするようにして下さい。

 まず先述した"肩甲骨面"の話を思い出しましょう。腕は肩甲骨面よりも後ろに行けば行くほど上げにくくなるということがわかりましたよね。つまり、この人体構造上の制約とテイクバック動作を重ね合わせて、ボールがトップの位置まで行く過程で、腕が肩甲骨面から後ろに逸脱しないようにしなければいけないということです。下の写真を見比べてみて下さい。白い実線は肩甲骨面を表しており、左側の悪い例は最初から腕が肩甲骨面よりも後ろに入ってしまっています。そうなると、腕が上がりにくいばかりか、上体の後傾を助長し、そのあとの動作に悪影響を及ぼします。また、悪いテイクバックでは、2塁方向から見ると投球腕の肘がL字を描き、良いテイクバックでは、肘が直線的に上がっていきます。投球腕が下垂したテイクバックの初期段階において、ボールを持った手の位置は後ろ脚太ももの前にあることが望ましく、そこから絶対にからだの後ろに持って行ってはいけません。

 さらに補足として、テイクバック動作に入る際の手の向きは、手の甲がわずかに内側を向き(内側にひねりすぎてはいけません。できるだけ脱力して!)、トップの位置では、ボールが右投手の場合は遊撃手の方向を、左投手の場合は2塁手の方向をそれぞれ向きます。このとき、ボールはできるだけ頭に近づけ、肩の上方に来るようにします。


4.グローブ腕の使い方
 4番目は、利き腕と反対側のグローブ腕の使い方です。これは非常に重要なチェック項目であるのにも関わらず、日本ではきちんと指導がなされていないのが実状です。統計的には、以下の教え方が多いようですが、どちらも適確ではありません。
 「(グローブ腕を)小さくたため」
 「(グローブ腕の)肘を体の後ろに引け」
 特に肘を体の後ろに引けという教え方には注意が必要で、この動作が強調されると、体の開きが早くなってしまいます。体の開きのタイミングが早くなると、からだを上から見たとき、投球腕が両肩を結んだラインよりも後ろに残ってしまい、ゼロポジションでのボールリリースができなくなります。このことは、肩の前側への負担を増やすばかりか、パフォーマンス的にもバッターがタイミングを取りやすくなるというデメリットを生みます。これに加えて前項のテイクバックがからだの後ろに入ってしまっていると、肩や肘への負担は増大するのです。

 正しくは、下の写真のように、グローブ腕を外にひねって(捕球面が上を向く)からだの前に残すことです。大事なのは形ではなく力の入れ方で、柔道で相手の前えりをつかんで引き寄せる動きと、腕相撲で台(アームレスリングの場合はバー)を持つ方の手の動きがミックスされたようなイメージです(前腕回外+肩内転)。このとき、グローブで何か物をつかみ取るように握り締めるとなおよいでしょう。ピッチャー用のグローブで、指の背面部分がナイロン製の軽いものがありますが、これはこの動作をしやすくしています。あまり重くて固いグローブはピッチャー用にはお薦めしません。


5.フォロースルー
 5番目はフォロースルーです。これは投球腕の振り方についての注意点ですが、ボールをリリースしたあと、ムチを打つように腕を急激に止めてはいけません。投球腕はしっかりと最後まで反対側の脇の下まで、勢いを逃がしながら振ることが大切です。その際、利き腕側の肩甲骨がキャッチャーに見えるまで、腕だけでなく肩の根っこから振りましょう。肩甲骨が後ろに残った状態で腕だけが振られてしまうと、肩の関節が伸ばされて、肩の奥にあるインナーマッスルが悲鳴を上げます。これを続けていると、いわゆるルーズショルダー(ゆるんだ肩)となり、いろいろな障害の元となります。

 また、腕をしっかりと最後まで振るためには、適正なスタンス幅も重要なポイントとなります。スタンスが狭すぎれば前脚は棒立ちになり、スタンスが広すぎれば前脚に乗り切ることができず、腕も振り切れません。投げ終わったあとに、前脚一本でバランス良く立てるスタンス幅を見つけることも大切なチェック項目の一つです。


6.前脚(足)の使い方
 最後のチェック項目は前脚(足)の使い方です。まず、前足の着地点はどこが最も適切なのか考えてみましょう。投球動作における足の踏み出し方は、次のAとBのうち、どちらを基にすればよいのでしょうか(右投げの場合)?


 これは多少意見の分かれるところだと思いますが、私はやはりBを基にすべきだと考えます。最終的に前足のつま先はキャッチャー方向を向きますが、Bの動作様式を基にして、前足は後ろ足の内くるぶし直下から(母趾球からという研究データもあります)ホームプレートに引いたライン上に着地するのがベストです。これより左右横半足分を許容範囲として、そこから外に出ればアウトステップ、内に入ればインステップとします。下図のようなT字ラインを描いて練習するとよいでしょう。


 適正な着地点にあまりばらつきなく前足を下ろすことができるようになったら、さらに細かく着地の仕方を学習していきます。「つま先を投げる方に向ける」という一般的な教えが定着している中で、その弊害として、上げた前脚を下ろす際に、早い段階からつま先を前に向けようとしてしまい、何かをまたぐように足全体をポンッと置く選手を少なからず見かけます。このような着地方法だと小趾加重になりやすく、膝が外に割れてしまうことも多くなりがちです。正しくは、前足裏の内側、かかとに近いところから土踏まずの辺りより接地し、前脚に体重がのり込んでくるに従って内側から足全体に加重していきます。


 着地直後は、つま先は若干内側を向き、加重と共に反時計回りに(右投げの場合)土を掻いてつま先を前に向けます。そして、ボールリリースの瞬間、わずかに膝を内側に入れて、前脚の付け根を絞り込みます(股関節内転)。この動作をしやすくするためにも、最終的につま先は若干内側を向いていた方がよいでしょう(つま先と膝の向く方向は同じ)。

 つまり、ボールを投げる瞬間は、両腕・両脚それぞれに、内転方向の力が加わればよいということになりますね。残り少なくなった歯磨き粉のチューブを下の方から絞り出すように、四肢の内向きの力でボールに力を加えていくのです。


 以上、かなり長くなりましたが、理に叶ったフォーム作り[スローイング編]、御理解頂けましたでしょうか?今回も最後までお読み頂き、ありがとうございました。



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※訂正:90ページ中段、Check1の下
誤「ピッチングフォーム」→正「テイクバック」