連載『少年野球のコンディショニング』 バックナンバー
第4回 「理に叶ったフォーム作り[バッティング編]」

■バッティングのコアとなるもの
 前回のピッチング編に続き、連載第4回では、バッティングの動作について考えてみたいと思います。ピッチングに比べると、障害予防の観点からは、バッティングフォームが悪いからと言って直接ケガにつながるということは少ないため、ここでは、いかにしてバッティングの運動効率を上げていくか、という点について論じていきます。単なる技術論では、バットの握り方に始まり、細かい枝葉の部分にまで話を広げなければなりませんが、そういった視点で考えていくと、バッティングでコアとなるのは、やはり腰から下の使い方に集約されるでしょう。特に、野球の現場ではごくごく当たり前のように使われている、「腰を入れる」というキーワードに今回は着目してみようと思います。

■「腰を入れる」とは?
 まず、下の連続写真とビデオを見て下さい。パッと見て、上段と下段、どちらが理に叶った打ち方だと思いますか?


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 答えは下段です。上段は後ろ脚に体重を残したまま腰を回し、バットを振っています。一方、下段の方は股関節の体重移動(ウェイトシフト)を意識し、しっかり腰を入れてバットを振ってみました。上段に比べ、下段はウェイトシフトに時間を要している分(2~4コマ目)、バットの振り出しが遅れていますが、腰がしっかり入っているため、スイングスピードが速く、7コマ目で上段に追い付いています。つまりはその分、ボールを長く見られるということになりますね。

 では、この「腰を入れる」という動作は、もっと噛み砕いて言うと、どういうことなのでしょうか?


 上の写真を見て下さい。これは、腰を回転させる際の初期動作の様子を示したものですが、上段はバットを構えたときからずっと前脚を内側に締め込んだまま、下段は逆に前脚をゆるめたまま、それぞれ腰を回しています。ここで言う腰とは、厳密に言うと"骨盤"を指し、骨盤と脚のジョイント部分である股関節を上手に使うことで、効率よく骨盤を回転させることができるのです。

 実際にやってみましょう。まず、後ろ脚の股関節を内側に絞る(内旋)ことで、自然に骨盤が回転し始め、それにつられて上体も回っていきます。くれぐれも腹筋を使って上体だけで腰を回さないようにして下さい。始動はあくまでも下から。これが鉄則です。

 さて、問題はここからです。後ろ脚を内側に締め込むことで自然に回り始めた骨盤…。これをさらに回すためにはどうすればよいでしょうか?もう一度上の写真を見て下さい。前脚が開かないようにと、上段の如く最初から前脚を内側に絞っていたらどうなるでしょうか?せっかく後ろ脚を使って骨盤を回しているのに、前脚が絞られているために骨盤の回転が途中で止まってしまいませんか?当然このままではバットを振ることができませんから、あとは上体で(腹筋で)腰を回すしかありません。これは非常に効率の悪い動きです。結果的に、上の連続写真の上段のように、後ろ脚に体重を残した打ち方となります。腰の回転と共に重要な体重移動(ウェイトシフト)も、これでは中途半端に終わってしまうからです。つまり、腰が完全に入らないまま、バットを振ることになるわけですね。

 だんだん見えてきたと思いますが、下肢を使って骨盤をスムーズに回すためには、前脚の使い方がカギを握っています。それには、下段の写真のように、前脚の股関節を絞らずにゆるめておくこと。膝も柔らかく使い、骨盤の回転に対し股関節をニュートラルな状態に保つことが重要です。すなわちもっと厳密に言うと、バットを振り始めるまでは、骨盤の前額面(骨盤を前後に二分する垂直面)に対し、前足のつま先が約90度前方を向いていればよいのです(下図)。そうすれば、途中で骨盤の回転がロックすることはありません。そしてさらに、ウェイトシフトも最後までしっかりおこなわれ、腰が前脚の股関節にガッチリ入るのです。写真の赤い補助線を見てもわかるように、上段と下段とではウェイトシフトの幅がおよそ脚一本分違っています。これは外角球を打つ際に大きな差となって現れます。上段のような使い方をすれば、前脚が最初から絞られているために膝をうまく使うことができず、腰のところで体が折れて上体から突っ込みやすくなるのです。これでは、外角球に対して大きな当たりは望めませんね。ポップフライかボテボテのゴロになるのは目に見えています。

 「腰を入れる」とは、後ろ脚と前脚を上手に使って骨盤を回しながら、後ろ脚の股関節にのっていた体重を前脚の股関節に移すことなのです。


■"ツイスト打法"の根幹を成すもの ― バットを振ることよりまずボールを見送る練習を!
 上述の説明だけではまだ舌足らずで、誤解を招きかねません。このまま前脚をゆるめた状態でバットを振ったら、体が早く開いて体勢が崩れてしまいますよね。そこで、腰がしっかりと入るようになったら、バットを持つグリップが骨盤の回転につられて体の前に出て来ないよう、いわゆるトップの形をキープしてボールを見送る練習をします。ウェイトシフトをせずに、ただバットを構えたままの状態でボールを見送ってはいけません(試合で相手内野手へのプレッシャーが違ってきます)。そしてさらに、緩急の付いたボールで、特に球速が遅くなったときにしっかりとした形で見送れるようにしましょう。

 ここまで来れば、あとはバットを振るだけですが、ここでもキーとなるのが前脚の使い方です。バットを振り始めるまでゆるめておいた前脚を、ここでようやく内側に締め込むのです。ボールインパクトの瞬間、その締め込む力は最大となり、前脚の膝は伸展します。そしてウェイトシフトした分、上体はその反動で後ろ(キャッチャー方向)に戻され、外見上はあたかも最初から後ろ脚にずっと体重をのせていたような錯覚に陥るのです。バリー・ボンズ選手や松井秀喜選手がボールを打ったあと、しばしば前足のつま先が地面から離れるのはそのためです。連続写真下段の6~7コマ目を見ると、それがよくわかります。7コマ目の上体の位置は、上段のそれとほとんど変わりません。

 バットを振り始めるまでは、下半身は骨盤の回転と同じ方向に動きますが、スイングが始まると、前脚が内側に締め込まれるために、それまでの動きとは逆向きの力が加わって下半身の動きに急ブレーキがかかります。すると、バットヘッドがより走るようになり、スイングスピードが加速するのです。連続写真下段の振り始めが遅いのに、7コマ目で上段に追い付いているのはそのためです。当然、打球の速さや飛距離も増します。これぞまさしく"ツイスト打法"の根幹を成すもので、阿部慎之助選手の名前がその代表格としてよく挙げられますが、彼に反対方向(レフト)への長打が多いのはそういった技術的な裏付けがあるからなのです。

 いかがでしょうか?再度下の写真を見るとよくわかると思いますが、しっかりと腰を入れてバットを振るためには前脚の使い方が何よりも重要で、最初から締めっ放しもダメ、ゆるめっ放しもダメということになりますね。要は、ゆるめてから絞る。これが大事なのです。バットを振り始めるまで前脚をゆるめておくことは、開くということではありません。くれぐれも誤解のないようにお願い致します。


 指導の現場で、「後ろ脚に体重を残して打ちなさい」という言葉をよく耳にしますが、もしこれだけを聞いたら、選手は果たして腰をしっかり入れて打つことができるでしょうか?ボールインパクトの瞬間の形だけを見てその指示を出しているとしたら、それは大きな間違いです。さらに、それに加えて「もっとボールを引き付けて打ちなさい」と指導したら?結果は目に見えていますよね。非力な選手はひたすらどん詰まりを繰り返すだけです。それを見て「スイングが足りないからだ!」と怒っても、何の解決にもなりません。選手は疲れるだけですし、動作の中で上体で腰を回す比率が増える分、脇腹を痛めることにもつながります。

 バッティングにおいて、腰を入れて打つことがいかに重要で奥深いことなのか、私自身、今さらながら痛感しています。前脚の股関節にウェイトシフトして打つことは、前に突っ込んで打つこととは意味合いが異なります。上体だけでボールを打ちに行っていない限り、突っ込んだことにはなりません。下から上に動きを伝えるということ(運動連鎖)を見失わないためにも、後ろ脚と前脚を巧みに連動させ、しっかりと腰の入った打ち方を何よりも先にマスターしましょう。

 以上、理に叶ったフォーム作り[バッティング編]、御理解頂けましたでしょうか?今回も最後までお読み頂き、ありがとうございました。